四年前のこの時期に、兄の護は家出を成功させていた。昇が中学二年生で護は高校二年生だった。兄弟の仲は悪くなかったが、昇は護に負い目を護は昇に嫉妬を感じていた。原因は母親の贔屓だった。昇がそれをはっきりと感じたのは、竜神の滝で規子に大けがをさせた後だった。母親は護を叱った。護が自転車を貸さなければ昇は山に登れなかったはずだと言った。とんだ筋違いだし、実際には昇が黙って持っていったにもかかわらず、母親は護の言い分を全く聞き入れず一方的に護を責めた。それ以前にも、小さな似たようなことは色々とあった。護が友達と家でトランプ遊びをしていたのを、昇が羨ましがって貯金箱を壊してまで自分用にトランプを買ってきたことがあったが、母親はそれも護のせいにした。「あなたが昇を仲間外れにしたから」とさんざんに責めた。が、このときも昇が勝手に行動しただけだった。昇は、叱られている護を気の毒に思いながらも、「仲間に入れてと言わなかった」ことを黙っていた。黙って母親の後ろで泣きべそをかいていた。反対に褒められるのはいつも昇のほうだった。二人は絵を描くのが得意だった。昇は当時はやりの漫画を模造紙や落書き帳に真似していたが、護は自分だけのキャラクターを作り上げ、ストーリーを仕立ててコマ割りまでして描けるほどだった。二人は学校で絵の賞をもらってきたが、母親はもっぱら昇の絵だけを褒めた。 昇は、母親が自分を贔屓する理由までは分からなかったが、成長するにつれ護への「すまない」と思う気持ちは増すばかりだった。だからあのときは本心で叫んだ。 護が家出をしたその日のうちに、大阪の警察から「お子さんを保護している」と電話があった。昇は母親と一緒にタクシーで護を迎えに行った。昇は車内で母親の苛立った横顔を見ながら、護のことを案じた。(兄ちゃんはまた叱られる。やっと逃げ出せたのに、警察のボケが)と。護が家出をしたのはこのときで三度目だった。それまでで一番遠くまで行っていた。昇は護の自由を願うのと同じくらい強い気持ちで、自分もいつか出てゆくとその当時から決意していた。 警察の前で母親は大袈裟に謝った。そして大袈裟に護を叱った。昇はそんな母親が恥ずかしく思えた。護もずっと目を背けていた。 その帰り道。タクシーが休憩に立ち寄った高速道路のパーキングで、護が消えた。母親は狼狽え嘆くばかりだった。「兄ちゃーん、逃げろー」三便宝:http://www.hakanpo.com/p/pro150.htmlトリーバーチ 財布ティファニー ネックレス

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